頻尿と漢方薬
「さっきトイレに行ったばかりなのに、また行きたくなってしまう。」
「年齢だからトイレが近いのはしょうがない、とあきらめていないでしょうか。」
トイレが近いという悩みは、周りに相談しづらいため、一人で抱え込んでしまうこともあります。
頻尿は、日常生活に大きな支障をきたす症状であり、その原因も多岐にわたります。西洋医学的な治療では、症状を抑えるための薬物療法が中心となりますが、漢方医学では、体全体のバランスを整えることで、根本的な改善を目指すことができます。
正常な尿とはどんな状態?
・自分の意志で排尿のコントロールをすることができる。
・力を入れずに排尿できる。
・排尿後にすぐにトイレに行きたくならない状態。
・日中の排尿回数が5〜7回
排尿回数が少ない方が良いと考える方もいますが、極端に少ないと腎臓に負担がかかります。
頻尿とは
頻尿とは「朝起きてからの尿の回数が8回以上、夜間トイレに行く回数が1回以上のこと」を言います。しかし、排尿回数には個人差があるため、回数だけで判断するのではなく、日常生活に支障をきたすほど頻繁に尿意を感じる場合も頻尿と考えられます。
頻尿の症状
頻尿の主な症状は、尿意を感じる回数が増えることですが、以下のような症状を伴う場合もあります。
✔️尿意切迫感(急に尿意を感じ、我慢するのが難しい)
✔️夜間頻尿(夜中に何度もトイレに起きる)
✔️残尿感(排尿後も尿が残っている感じがする)
✔️排尿痛(排尿時に痛みを感じる)
✔️尿漏れ
頻尿の原因
頻尿の原因は多岐にわたり、以下のようなものが考えられます。
生活習慣
- 水分の過剰摂取
- カフェインやアルコールの摂取
- 利尿作用のある食品や薬の摂取
病気
- 過活動膀胱
- 膀胱炎や尿道炎などの感染症
- 前立腺肥大症(男性)
- 糖尿病
- 神経因性膀胱
- 間質性膀胱炎
その他
- ストレスや不安
- 妊娠
- 加齢
また、女性は男性に比べて頻尿になりやすい傾向があります。その背景には、女性特有の身体的構造やライフステージによるホルモンバランスの変化などが複雑に関係しています。
女性に頻尿が多い主な理由
尿道の短さ:
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- 女性の尿道は男性に比べて短いため、細菌が膀胱に侵入しやすく、膀胱炎などの尿路感染症を引き起こしやすいです。
- 尿路感染症は頻尿の代表的な原因の一つです。
骨盤底筋の緩み:
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- 骨盤底筋は膀胱や子宮を支える筋肉ですが、出産や加齢によって緩みやすいです。
- 骨盤底筋が緩むと、膀胱が圧迫されたり、尿道が緩んだりして、頻尿や尿漏れを引き起こすことがあります。
ホルモンバランスの変化:
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- 妊娠や出産、更年期など、女性ホルモンのバランスが大きく変化する時期は、頻尿になりやすいです。
- 妊娠中は、大きくなった子宮が膀胱を圧迫し、頻尿を引き起こします。
- 更年期は、女性ホルモンの減少により、尿道の粘膜が薄くなり、頻尿や尿漏れが起こりやすくなります。
その他:
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- 冷え性:女性は男性に比べて冷え性の方が多い傾向があります。体が冷えると、頻尿に繋がりやすいです。
- ストレス:ストレスは自律神経の乱れに繋がり、頻尿を引き起こすことがあります。
頻尿の治療
頻尿の治療法は、原因によって異なります。
<生活習慣の改善>
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- 水分摂取量の調整
- カフェインやアルコールの摂取を控える
- 規則正しい排尿習慣をつける
<薬物療法>
過活動膀胱や感染症など、原因となる病気に対する薬を服用します。
<手術>
前立腺肥大症など、手術が必要な場合もあります。
<行動療法>
膀胱訓練や骨盤底筋体操など、排尿をコントロールする訓練を行います。
頻尿の薬物療法
頻尿の治療薬は、原因となる病気や症状によって異なります。主な治療薬は以下の通りです。
①過活動膀胱の治療薬
抗コリン薬:
膀胱の筋肉の過剰な収縮を抑え、尿意切迫感や頻尿を改善します。
例:ベシケア、デトルシトール、トビエースなど
β3作動薬:
膀胱の筋肉を弛緩させ、尿を溜めやすくします。
例:ベタニス、ベオーバなど
②尿路感染症の治療薬
抗菌薬:
細菌感染による膀胱炎や尿道炎の治療に用いられます。
例:セフジニル、レボフロキサシンなど
③前立腺肥大症の治療薬(男性)
α1遮断薬:
前立腺や尿道の筋肉を弛緩させ、排尿をスムーズにします。
例:ハルナール、フリバス、ユリーフなど
5α還元酵素阻害薬:
前立腺の肥大を抑制します。
例:ザルティア、プロスタールなど
頻尿の漢方薬
尿に効果が期待できる漢方薬はいくつか存在しますが、体質や症状によって適切なものが異なります。代表的な漢方薬とその特徴は以下の通りです。
- 八味地黄丸(はちみじおうがん)
- 体力低下、冷え、腰痛、夜間頻尿などを伴う方に適しています。
- 腎機能を高め、水分代謝を改善する効果が期待できます。
- 加齢に伴う頻尿や、排尿困難、残尿感などにも用いられます。
- 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
- 八味地黄丸と同様に、腎機能を高める効果が期待できます。
- より体力があり、下肢のしびれや痛みなどを伴う方に適しています。
- 糖尿病による頻尿にも用いられることがあります。
- 猪苓湯(ちょれいとう)
- 比較的体力に関わらず使用でき、排尿痛、残尿感、尿の濁りなどを伴う方に適しています。
- 炎症を抑え、利尿作用を高める効果が期待できます。
- 膀胱炎や尿道炎など、泌尿器系の炎症による頻尿に用いられます。
- 清心蓮子飲(せいしんれんしいん)
- 体力中等度以下で、残尿感、頻尿、排尿痛、尿のにごりなどを伴う方に適しています。
- 炎症を抑え、精神的な緊張を和らげる効果も期待できます。
- 小建中湯(しょうけんちゅうとう)
- 体力虚弱で、疲労しやすく、頻尿および多尿をなどを伴う方の小児虚弱体質、小児夜尿症などに用いられます。
漢方薬は、効果が現れるまでに時間がかかる場合があります。根気強く服用を続けることが大切です。
頻尿の漢方薬による治療のメリット
漢方薬による治療のメリットは、以下の点が挙げられます。
- 体質改善:
- 漢方薬は、症状だけでなく、体全体のバランスを整えることで、頻尿の原因となる体質を改善します。
- 副作用が少ない:
- 漢方薬は、天然由来の生薬を使用しているため、西洋薬に比べて副作用が少ないと言われています。
- 根本的な改善:
- 漢方薬は、症状を抑えるだけでなく、根本的な原因に働きかけることで、頻尿の改善を目指します。
ただし、漢方薬は即効性があるわけではありません。効果が現れるまでには時間がかかる場合もありますので、根気強く服用を続けることが大切です。頻尿でお悩みの方は、漢方薬による治療も選択肢の一つとして検討してみてはいかがでしょうか。
参考文献
日本泌尿器科学会:頻尿 https://www.urol.or.jp/public/symptom/02.html