乳がんと漢方症例 乳がん手術後のタモキシフェンによる副作用・ホットフラッシュが漢方薬で改善
女性がかかる「がん」のうち、最も多いのが「乳がん」です。生涯のうちに「乳がん」にかかる割合は、50年前は50人に1人だったのにも関わらず、現在は14人に1人と、増加傾向にあります。乳がんの確率を上げる要因は遺伝的な原因、高齢出産、女性の社会進出、閉経が遅い、出産経験がない、初潮が早い、など様々な理由が挙げられます。
出産未経験は女性特有の病気につながりやすい?
「乳がん」の6〜7割は女性ホルモン・エストロゲンによって成長すると考えられています。妊娠中や分娩後は、しばらく、生理が止まり、エストロゲンの分泌量が少なくなっています。昔の女性は生涯の生理の回数は50回でしたが、現代女性はそれよりもはるかに多く450回から500回と推測されます。昔の女性は、出産回数が多いことからエストロゲンにさらされる機会が少なかったと考えられますが、近年では出産回数が減少していることから、生涯でエストロゲンの影響を受けることが増え、「乳がん」が増加していると考えられています。また、女性の社会進出によるストレスや、食文化の変化からも乳がんは増加傾向にあると考えられます。
「乳がん」になってしまったら
「乳がん」と疑われる際にはすぐに病院に受診してください。
「乳がん」の治療は?
治療には外科的手術や放射線による治療、薬物による治療が挙げられます。
「乳がん」の薬物によるホルモン療法とは?
エストロゲンの作用を抑えることで、乳がんの増殖を抑えて再発を予防します。
薬物による治療には大きく分けると3つあります。
●エストロゲンの働きを抑える抗エストロゲン剤
エストロゲンの受容体に働き、エストロゲンの働きを抑えるものです。
例)タモキシフェン(商品名 ノルバデックス)トレミフェン(商品名 フェアストン)
副作用:ホットフラッシュ 膣分泌物の増加 月経異常
●エストロゲンの働きを抑えるLH-RHアゴニスト製剤
脳下垂体からホルモンが分泌され、その指令により卵巣からエストロゲンが分泌されるのます。脳下垂体からの指令をストップさせることで、卵巣で作れられるエストロゲンの分泌を抑えるものです。
例)ゴセレリン(商品名 ゾラデックス)リュープロレリン(商品名 リュープリン)
副作用:ホットフラッシュなどの更年期症状
●アロマターゼ阻害剤
閉経後の女性に効果的です。アンドロゲンという男性ホルモンは、脂肪組織でアロマターゼという酵素の働きを受けて、エストロゲンに変わるのですが、このアロマターゼの働きを止めることで、エストロゲンが作られるのを抑制します。
例)アナストロゾール(アリミデックス) エキセメスタン(アロマシン) レトロゾール(フェマーラ)
副作用:関節痛 骨密度低下
「乳がん」の薬物による副作用は?
乳がんの予後は再発防止のため、西洋薬を飲むことは大切ですが、一方で副作用の出現頻度は高く、不快な症状に悩まされる方もいます。漢方薬は、西洋薬による副作用を抑えることができることも大きな特徴の一つです。乳がん治療後は、西洋薬の副作用による不快な症状を取り除き、整えていくことも大切です。
乳がんの治療薬の副作用の中でも、出現頻度の高い「ホットフラッシュ」には、漢方薬が著効するケースが多々あります。
<乳がん手術後の西洋薬による副作用には漢方薬が良い>
乳がんは検診によって、早期発見し治療することで、予後が良好な病気の一つです。そして、手術後はしっかり、西洋薬によって再発防止をしていくことが大切です。
乳がんは女性ホルモン(エストロゲン)が存在することによって、増え続けてしまうため、乳がん手術後はエストロゲンを抑えるための飲み薬が使われます。しかし、女性ホルモンを抑えることにより、異常な発汗(ホットフラッシュ)や動悸、精神的なイライラなどの更年期のような症状に悩まされる方もいます。
【乳がんと漢方 漢方症例】
乳がん手術後のタモキシフェンによる副作用・ホットフラッシュが漢方薬で改善
30代女性
X年来店
X年―1年 乳がんステージⅠ(非浸潤型)と診断され放射線治療を受ける。
再発防止のためタモキシフェンを服用する。
<主な悩みの症状>ホットフラッシュ 急に汗が出てくることで、人前に出るのが恥ずかしいし、不快に感じている。
<これまでの経過>
タモキシフェン服用中 タモキシフェンを飲み始めてからホットフラッシュの副作用が出る。飲みはじめてから7キロ太る。体が重たく、むくむ。熱くてイライラすることが増え、集中力がなくなる。頻尿になり、尿もれするようになる。夜間尿(2,3回)。膝の痛みも出てきた。便秘する。胃酸が分泌され、胃の痛みを感じる。熱い気候によって症状は更に悪化する。親戚が亡くなったことをきっかけに精神的に不安定になる。飛行機の機内でパニック発作を起こす。以後、予期不安があり、不安を感じる時に動悸する。昔から寝つきが悪い。眠りが浅く夢を見る。寝汗をかく。普段肩こりもひどい。食欲はありすぎるので我慢している。
便秘(排便は5日に一回)
生理量 多い 周期27日(一定しない 15日でくることもある)生理前にイライラする。
舌辺紅 淡 白苔
<処方>柴胡加竜骨牡蛎湯+半夏厚朴湯+白虎加人参湯
>>3週間後 体調変化
異常な発汗が気にならなくなる。ホットフラッシュが改善する。集中力も改善することができた。動悸する頻度が減るが、暑い日にはいまだに動悸する。寝つきは改善されていない。生理前になるとイライラする。
メインの悩みでさる「ホットフラッシュ」が改善されているため同じ処方を続ける。
>>6週間後
イライラが改善し、集中力が上がる。胃酸の分泌が少なくなった。寝つきも問題なくなり、睡眠の質も上がった。動悸が少なくなったが、熱い日と朝起きたときに動悸する。
その他気圧差に弱く、ざわざわする感じがある。頭がぼーっとする。体重が2キロ減り喜ぶ。
同じ処方を続ける。
以後、病院で乳がんの経過観察をしながら、タモキシフェンの服用を続けていきました。タモキシフェンを飲んでいる限り、副作用として、更年期のような症状が現れることもあります。そのため、漢方薬の治療を継続して行う必要がありました。本人の一番の訴えである「ホットフラッシュ」が改善されており、その他の症状、集中力や睡眠、イライラ、動悸なども改善されているため、柴胡加竜骨牡蛎湯を中心とした処方でその時々の症状に合わせて、適宜調整をしながら漢方薬の服用を続けていただきました。
<処方に関して>
睡眠の質が悪いこと、動悸がする、イライラする、ホットフラッシュで上半身に汗をかきやすい、便秘することを目標に「柴胡加竜骨牡蛎湯」を処方しました。
その他、更年期のような症状の中で、熱いことへの不快感を感じる際には「石膏」という生薬を中心とした漢方薬を用いることも多々あります。今回は、熱を取り除く生薬を中心とした「白虎加人参湯」という処方を選択しました。舌苔白、息苦しさや予期不安があることから「半夏」を中心とした「半夏厚朴湯」を処方したところ、著効しました。
柴胡加竜骨牡蛎湯という処方は、「傷寒論」に載っている処方で、「傷寒八九日、これを下し、胸満、煩驚し、小便利せず、譫言し、一身ことごとく重く、転側すべからざるものは、柴胡加竜骨牡蛎湯これを主る。」とされています。イライラ・動悸・便秘・肋骨下を抑えると抵抗があることを目標に用いますが、応用範囲は広く神経症や不眠症、精神的なことが原因の発汗などに用いることができます。
<結語>
乳がんの術後のホルモン療法により乳がんの再発防止ができる反面、更年期のような症状で悩む女性は全体の50%にも及びます。一方で、西洋薬の副作用や、更年期症状に漢方薬が著効するケースは非常に多く見られます。漢方薬による治療では、ホルモン補充療法によって、どのような症状が現れるのか、生活習慣などを伺いながら、体質を見極めた上でケアしていくことが可能です。日常に影響を及ぼしてしまうほどの副作用でお悩みの方は是非ご相談ください。
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